アオゾラをカナデヨ
「ちょっと話したいことがあって」
「うん、何?」

大丈夫。何を言われても、もう大丈夫。

「南公園に来られる?できたら直接 話したいから」

「……うん、分かった。すぐ行く」

「じゃ、待ってるね」

そう言ってすぐに電話を切った香子の声は、高ぶっているわけでもなく落ち着いているわけでもなく。そこから気持ちは読み取れなかった。

わざわざ東関東大会の前日に私に会って話したいなんて、よほどのことなんだろう。どんな内容かは分からないが、私と香子、そして安斉くんの関係が変わるような何かだろう。

香子はこの時期の吹奏楽部の必死さは分かってくれているはずだから、そんなにヒドいことは言ってこないと思う。

それでもトクンと鳴る胸、焦る気持ちを抑えながら着替えを済ませ家を出る。

ギラギラと照りつける太陽に一瞬怯んだが、久しぶりにまたがる自転車の揺れに体を預けペダルを漕ぎ進む。

香子と話をするのは、あの空き教室に呼び出された時以来だ。あの時の香子の言葉を思い出すと指先が冷たくなるような感覚になる。

あの時はすぐに安斉くんが優しく元気づけてくれたけど、今日はさすがにそれもないだろう。
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