アオゾラをカナデヨ
「安斉くんってさ……優しいよね」

そう言って空を仰ぐ香子も、優しい顔をしていた。

「うん」

そう。安斉くんは、私だけじゃなく誰にでも優しいんだ。

「私に気がないのは分かってたけどさ、もっと冷たく突き放してくれたら簡単に諦められたのに……」

そこが、安斉くんのいいところでもあるんだけど。

「……」

「なんてね。安斉くんのせいじゃないんだけど。なんかね、フラれてからも普通に楽しく話してくれるからさ、嬉しくて……そんなんだから、ずっと諦められなくて」

ゆっくり、ゆっくりと自分の気持ちを話してくれる香子。

「うん。それだけ好きだってことだよね」

気持ちは、よく分かるよ。安斉くんが香子を突き放せない気持ちも、その優しさに甘えたい香子の気持ちも。だから私も最後の一歩がなかなか踏み出せないでいたんだ。

「……でもね、私ね……」

急に声のトーンを落とした香子が、体ごと私に向かって言った。


「私、安斉くんのこと、諦める」


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