君の声がきこえない
 学校へと向かう途中、海斗は何度も引き返したい衝動に駆られた。しかし、その度にわずかに残った良心が瀬戸際でそれを食い止める。海斗の心は振り子のように揺れ動かされた。
 そうこう考えているうちに、海斗の通う中学校が見えてきた。門の前には先生が立っている。生活指導の荒井 幸夫先生だ。目が合った。もう引き返すことはできない。海斗は観念したかのように歩みを進める。
「おはよう!」
「おはようございます」
荒井の無駄に大きな声が海斗の耳を刺激する。実に耳障りだ。どうしたら朝からあそこまで大きな声を出すことができるのか、海斗は怪訝に感じた。
 教室へと入り、海斗が自分の席に座ると、三人の男子生徒が海斗の教室へと入ってきた。別のクラスの福田 聡介、西村 博人、栗原 隼人の三人だ。ニヤつきながら海斗に近づいてくる。
「よう海斗。今日はサボらずに来たんだな」
リーダー格の福田が海斗の席の前に立ちながら一方的に、威圧的に話しかける。両脇には福田の腰巾着の西村、栗原がケラケラと笑いながら立っている。海斗は俯うつむき、黙ったままだ。
「放課後、いつもの場所へ来い。逃げんなよ。逃げたらどうなるか・・・分かってんだろうな?」
海斗は俯いたまま、無言でそれに応じる。三人はまたケラケラと笑いながら、海斗の教室を後にした。
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