君の声がきこえない
 しばらく歩くと、ようやく見慣れた我が家が見えてきた。玄関の前に立つと、海斗は一つ大きく深呼吸をしてから扉を開けた。
「ただいま」
「おかえり。学校、どうだった?」
「うん。楽しかったよ」
「すぐに夕飯できるからね」
「ごめん。今日ちょっと食欲ないんだ」
「どうしたの?具合でも悪いの?」
「うん、ちょっとね」
いつもと何ら変わらないはずの階段なのに、その日はいつもよりも長く、険しく感じられた。
自室の扉を開け、荷物を適当に置くと、そのままベッドへ倒れこむようにして寝た。精神的な疲れが思いのほか大きく、海斗は次の日の朝まで起きることはなかった。
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