イジワルなカレの愛情表現
「酷い顔……」


ドアのガラスに写る自分の顔が酷過ぎて、乾いた笑い声が漏れてしまう。


泣いたせいでマスカラがとれちゃって、目がパンダ状態になっちゃっているし、走ったせいで鼻の上や額はテカっている。

おまけに髪もボサボサ。


手で髪を整えながらも、また溢れそうになる涙を必死に堪えるように唇を噛みしめた。


永瀬さんはなんてイジワルな人だろうか。

こんなに好きにさせておいて、本命は山田さんだったなんて――。


あぁ、でも少し考えれば分かったことだよね。
あの永瀬さんが私に本気になるわけないじゃない。


散々甘い言葉をくれたけど、たった二文字の「好き」って言葉は言ってくれなかったし、どこに惹かれてくれたのかも、言ってくれなかった。


それだけで彼が私に本気じゃないってこと、考えれば理解できたはずなのに――。


好きにさせられちゃったから、そんな簡単なことも考えられなかった。……知りたくもなかったんだ。


自宅アパートのある最寄り駅のホームに降り立ち、改札口へ向かおうとしたものの、足が止まってしまう。
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