イジワルなカレの愛情表現
けれどそれもお互いの距離が数メートルになった頃には、山田さんも私達の存在に気づいた瞬間、大きく目を見開き、哀しげに瞳を揺らした。


――え、どうして山田さんがそんな顔をするの?


進むスピードは遅くなってしまい、山口室長が不思議そうに聞いてきた。


「前島さん? どうかした?」

「あっ、いいえ」


山口室長は私を見ていて、山田さんの存在に気づいていない。

その間にも距離は近付き、あっという間にすれ違っていく。


すれ違う瞬間見えてしまったのは、なぜか切なげに山口室長を見つめる山田さんの姿。


錯覚? どうしてあんな顔を……?


確かめたくて振り返り見ると、この前のように鋭い眼差しが向けられていて、慌てて首を前に戻した。


やっぱり錯覚だったようだ。
相変わらず私を見る目は敵対心剥き出しだ。……きっと永瀬さんのことがあるからでしょ?


けれど悪いのは永瀬さんなんだから。

山田さんという存在がいるというのに、私のことをからかうから。

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