イジワルなカレの愛情表現
あまりに永瀬さんが嬉しそうにジョッキを差し出してくるものだから、おずおずとジョッキを手にしてしまった。


「……不本意ですけどね」


ボソッと呟けばすかさず「可愛げのねぇやつ」なんて言葉が返ってきた。
けれどその表情は楽しそうで、声も弾んでいる。


その顔を見ちゃったら、気が抜けてしまった。


数日前からずっと永瀬さんに振り回されっぱなしだ。
突然指名されちゃうし、おかげで目黒さんと西垣さんから目の敵にされちゃうし。


それでも話してもいないのに私の性格を熟知していて、変われと促してくる不思議な人。
おまけに私とふたりで呑んでいて、楽しそうなんて。


永瀬さんの言う通り、明日のことは明日考えればいいや。今ウジウジ悩んでも、もうどうすることもできないし。

それならいっそ、今の時間を楽しむべきなのかもしれない。


社内で人気のイケメンエース様と、仕事とはいえ、こうやって居酒屋の個室で向かい合って呑める機会なんて、きっともうこの先一生ないのだから。


永瀬さんのジョッキに近付けると、すぐにグラス同士がぶつかり合う音が響いた。

「乾杯」


そう言って笑った永瀬さんに、胸が鳴ってしまった。

こうして我が社のイケメンエース様との、ふたりっきりの時間が始まったのだ。
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