イジワルなカレの愛情表現
「おはよう」

「おはようございます」


会社に到着し、社員が皆エントランスを抜けて行く中、私は周囲を異様に気にしながら足を進めていた。


今のところ嫌な視線を感じないし、陰口も聞こえてこない。


張り詰めていた糸が少しだけ解けた。


とりあえず予測通り朝一から噂が広まっていることはなさそうだ。


よかった、朝だけでも広まっていなくて。

けれど問題はこれからだ。なんて言ったってオフィスには目黒さんと、目黒さんから事情を聞いたであろう西垣さんが、待ち構えているのだから。


再び気持ちは落ちていき、恐る恐る社内広報室へと向かった。


挨拶する前に中の様子をガラスのドア越しに盗み見ると、山口室長以外みんな既に出勤していて、各々仕事の準備をしているところだった。


問題の目黒さんの様子を窺うものの、いつもと変わらず……いや、むしろどことなく機嫌がいい?


てっきり苛々しているとばかり思っていたから、拍子抜けしてしまう。


もしかして永瀬さん、メモに書き足したフリをして置かなかったのかな? 置かずに帰ってきた。だから守ってやるみたいなカッコイイことを言ったとか?
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