メロウ
湯で熱されたボウルの肌に触れたチョコレートは、みるみるうちにぐにゃりと歪み、あっけなく形を変えていく。
彼に触れられたときの私の身体も、こんなふうに、あられもなく熱を帯び、柔らかく崩れ落ちる。
ふっと自嘲的な笑みが洩れた。
さっき火を使ったので、キッチンはわずかに暖かくなっていて、私の吐息はもう凍らなかった。
ゴムベラを差し入れて、溶けだしたチョコレートをかきまぜる。
思わず、きれい、と呟いた。
滑らかに艶めく、とろみのある赤みがかった茶色の液体。
鼻腔にこびりつくような、濃密な甘い香り。
チョコレートが溶けきったところで、紙袋から生クリームのパックを取り出す。
入れるべき分量はよく分からない。
調べていないから。
べつに、美味しく作ることなど、求めていないのだ。
パックの口を開けて、そっと傾けると、もったりとした白い液体が、細く細く流れ出してきた。
チョコレートの焦茶に、生クリームの純白が鮮やかな模様を描き出す。
半分ほどを注ぎ入れて、ゴムベラでかきまぜると、さっと染まるようにチョコレートが淡くなった。
混ざりきったところで、手を止める。
振り返って、戸棚の扉をあけた。
中から、二つの小瓶を取り出す。
一つは、バニラエッセンス。
もう一つは………毒薬。
―――彼を殺すための。
彼に触れられたときの私の身体も、こんなふうに、あられもなく熱を帯び、柔らかく崩れ落ちる。
ふっと自嘲的な笑みが洩れた。
さっき火を使ったので、キッチンはわずかに暖かくなっていて、私の吐息はもう凍らなかった。
ゴムベラを差し入れて、溶けだしたチョコレートをかきまぜる。
思わず、きれい、と呟いた。
滑らかに艶めく、とろみのある赤みがかった茶色の液体。
鼻腔にこびりつくような、濃密な甘い香り。
チョコレートが溶けきったところで、紙袋から生クリームのパックを取り出す。
入れるべき分量はよく分からない。
調べていないから。
べつに、美味しく作ることなど、求めていないのだ。
パックの口を開けて、そっと傾けると、もったりとした白い液体が、細く細く流れ出してきた。
チョコレートの焦茶に、生クリームの純白が鮮やかな模様を描き出す。
半分ほどを注ぎ入れて、ゴムベラでかきまぜると、さっと染まるようにチョコレートが淡くなった。
混ざりきったところで、手を止める。
振り返って、戸棚の扉をあけた。
中から、二つの小瓶を取り出す。
一つは、バニラエッセンス。
もう一つは………毒薬。
―――彼を殺すための。