焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「……勇希、全然わかってない」


私は勇希から目を逸らしながら小さな声でそう言った。
勇希がゆっくり顔を上げて、私を見つめているのがわかる。


「ねえ。……勇希は感じないの? 私たちが『恋人』じゃなくなってきてるの」

「……え?」


私の繰り出した質問に、勇希が本当に戸惑った光を帯びて瞳を揺らす。


「私は勇希のお母さんでも妻でも家政婦でもないんだよ」


当たり前の一言を言い放つと、勇希は微妙に困惑した表情を浮かべた。


「何言って……。そんなの、俺だってちゃんと……」

「わかってないよ。わかってないから、こうなったの!」


何を言っても伝わらないような気がして来て、私は焦れて声を上げた。
そうして、向けられる瞳にハッとする。


結局まだ全然冷静になれない。
こうやって勇希と向かい合って話すのは、まだ時期尚早だったってことだ。


「……とにかく、私、もう無理。本当に無理だから」


一言だけそうはっきり告げて、立ち尽くしている祐希の横を通り抜けようとする。
首だけを動かした祐希が、「智美」と私の名前を呼んだ。


「待てよ、もっと……」

「サヨナラ。勇希」


私も肩越しに勇希を振り返って、とどめの一言を繰り出す。


そうして、自分でもまだモヤモヤした心を抱えながら、熱くなりかけた空気を漂わせる会議室のドアを開けて、廊下に歩き出した。
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