焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「……少しくらい聞けよ」


カウンターの向こうの店員に中ジョッキのお代わりを頼んでから、俺はカウンターに肘を立てて、右手で額を支えるように覆った。


――ヤバい。俺今、本気で撃沈しかけている。


智美のことを愚痴ってみても、気分は一向に晴れない。
俺は俯いて大きな溜め息をついた。


伏せた目を横に向けると、千川はまだ半分残っている中ジョッキを揺らしながら、長い指でお通しの枝豆を摘まんでいる。


「いつもの喧嘩だろ? いつもと同じように対処すればいいだろうが。葛西、お前の得意技だろ? 智美のご機嫌が直るタイミング見計らって、迎えに行って仲直りするのは」


枝豆の鞘を口に咥えて、少し声を不明瞭にしながら、千川は特に興味なさそうにそう言った。
それを聞きながら、俺は額の前で両手の指を組み合わせる。
カウンターの向こうで忙しく働く店員を上目遣いに見据えながら、鼻から息を吐いた。


「……初めてなんだよ」

「何が」

「……別れようって言われたの」


ボソッと呟くと、千川が俺の方に視線を流すのを感じた。
俺は少しだけ顔を上げて、まっすぐ前を向きながら短く言葉を続けた。


『サヨナラ』


智美の口から俺に向けられたその一言が、自分で思う以上に心を抉っている。


「なんか……今回はそう簡単にはいかなそうなんだよな」
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