焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
グッと唇を噛んで、俺は目の前に置かれた琥珀色の液体が並々注がれているジョッキを手に取った。
そして、勢いよく傾けて喉を潤す。
半分ほど一気に飲み干してから、深い息と共にカウンターに戻した。


「で? どうするつもりだ?」


静かな声で訊ねられて、俺は千川に顔を向けた。
千川が箸の先で渋~くたこわさを摘まんでいる。


「今度ばかりは本気で怒らせたんだろ? 最悪の事態も覚悟しておいた方がいいんじゃねえのか?」


千川は涼しげな目元を意地悪く細めて、ギクッとする俺を観察して楽しんでいる。


「……とにかく俺、明日島田さんとこ迎えに行くわ。これからはむしろ家のことは全部俺がやるくらいの覚悟で……」


そう言いながらも、やっぱり気分は沈んでいく。
今まで出来なかったことをやると宣言したところで、どうやって智美を信じさせればいいのか。


憂鬱な気分になりながら、俺は再びジョッキを煽った。
喉を仰け反らせる俺にチラッと視線を向けた千川が、たこわさをつつきながら首を傾げた。


「っつーか……。なんとなく俺はそこじゃないような気もするんだが……」

「は?」

「……いや。俺もよくわかんねーや」


自分で振っておいて気になる切り上げ方をする千川に、俺は眉間の皺を深めた。
それでも今気にすべきは千川の曖昧な言葉じゃない。


どうしたら智美の怒りを抑えることが出来るか。
『サヨナラ』って言葉を撤回してもらえるのか。
俺はその答えを探すことだけで精一杯だった。
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