焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
まだどこかぼんやりと俺を見上げてくる。
何度か瞬きをしてようやくその焦点に俺の姿を捉えたのか、一度大きく目を見開くと、ハッとしたように両手で俺を押しのけた。


「うっ」


予想外の反応に一瞬受け身が遅れて、俺は小さく呻きながら後方に尻餅をついた。
そうして、お互い床にどっかり座り込んだままで目線を合わせる。


この状況がよくわからない俺の前で、智美の方は黙ったまま俺との距離を広げるようにお尻をずらして後ずさる。
そんな反応に表れた『拒絶』に地味に傷つきながら、俺は前髪をクシャッと掻き上げた。


「……帰って来たのか?」


そうあって欲しいと思うのに、探るような聞き方になってしまう。
智美の態度からでは、とてもそうとは思えなかったからだ。
案の定、智美は俺から黙って目を逸らした。


「……だよな。でもどうしてこんなとこで。身体痛いだろ? ベッドに来れば良かったのに」


俺の方もなんとなく気まずくて、智美とは逆の方向に目を背ける。
智美がボソッと返事をした。


「泊まるつもりはなかったし、別れるって決めた人と同じベッドに入るなんて無理に決まってるじゃない」


恐ろしく他人行儀に素っ気なく言って、智美は部屋の端っこにたたんで置いてあったTシャツを適当に掴むと、俺に放り投げた。
それが俺の顔に命中する。
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