焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「ぶっ……」

「いいから着てよ。目のやり場がない」


不機嫌な様子で呟く智美に、一瞬俺の方が目を丸くした。


「はっ? 別にこんなの、今更だろ」

「私の中では、勇希……葛西君はもう他人なんです」

「っ……。なんだよそれ。ちょっと待てって」


仕事中以外で『葛西君』なんて呼ばれるのはいつ以来だろう。
結構本気でショックで、頑なな智美の態度に焦れる。


俺は投げつけられたTシャツを頭からスポッと被ってから、立ち上がって智美に歩み寄った。
一瞬行動の遅れた智美が、さっきと同じようにお尻をずらして逃げる。


「逃げるなよ。……とにかく、なんで今この状況なのか、教えてくれないか」


智美の目の前でしゃがんで、目を合わせようとしない彼女の顔を覗き込む。
智美は少しの間沈黙を続けると、諦めたように小さな溜め息をついた。


「昨夜……千川君と飲んでて、ゆう……葛西君は寝入っちゃったの」

「……あのさ、智美。呼び方。何もこれ見よがしによそよそしくならなくてもいいだろ。勇希って呼べよ」


額に手を当てて少し不機嫌になりながらそう言うと、そりゃあ智美の方も言い辛かったんだろう。
不貞腐れたように唇を尖らせて、それでも呼び方は元に戻してくれた。
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