焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
俺は智美の頬にかかる髪をそっとどけた。
こうして眠っているあどけない顔は、付き合い始めた頃と大して変わらない。
なのに、その心は全く変わってしまったのかと思うと、妙に空虚な気分になった。


「『もう好きじゃない』か……」


小さく呟いた声が自分でも寂しげに聞こえて、最後は溜め息で消えて行く。
そんなことを言われたのも初めてだ。
自分で思う以上にへこんでいるのを感じるけれど、それほど驚きもないというのが本当のところだ。


いつからだろう。
食事の手抜きとか以前に、智美の愛情を感じられなくなったのは。


ぼんやりと考えながら、彼女の穏やかな寝顔を見つめる。
寝息で軽く上下する肩を眺めてから、俺は俯いて無意味に何度か首を横に振った。


足元に折りたたんであった布団を引っ張って、智美の身体にかけてから、ベッドを軋ませて立ち上がった。
ほんの数歩でドアの前に辿り着いて、閉める前にもう一度智美を振り返る。


わずかに開いた唇に目が行って、ドクンと胸が騒ぐのを感じながら、俺はリビングに戻る。
静かにドアを閉めると、背を預けて天井を見遣った。
思わず溜め息が漏れる。


――いや、自分でもなんとなく感じる。
多分、智美が俺を『好きじゃなくなった』根本の原因は、俺の方にあると思う。
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