焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
俺を取り巻く職場環境は、どこまでもクールビズを推奨してくれない。


社内でも一際厳重なセキュリティシステムを誇る役員フロアにある応接室の前で、申し訳程度に並べられたパイプ椅子に座りながら、俺は第一ボタンまでしっかり留めてネクタイも締めた。


目の前の重厚なドアの向こうでは、役付昇進に関わる人事面接が行われている。
今面接に臨んでいるのは、確か年次が二年上の企画部の先輩だ。
それもそろそろ終わる時間だ。
そして次に俺が呼ばれる。


今関わっているプロジェクトで社長表彰を受けたら、こういう事態があるかもしれない、とは思っていた。
俺は、社会人として、良くも悪くも組織を知っている。
仕事で重視されるのはプロセスじゃない。
結果を出さなければ、実績として認められないのだ。


それなのに、俺は『史上最年少課長』昇進前の役員面接に呼ばれていた。
結果を出す前にこういうチャンスを得たことは、誇りに思っていい。


部長直々に相手をしてくれた模擬面接で、予想される質問に対する返答は全部用意済だ。
特に緊張もしていない。
普通にこなせば、俺は史上最年少の栄誉を受けることが出来るだろう。


けれど、その代償として部長に求められる『責任』が大きく胸にのしかかる。
つい無意識に溜め息をついた時。


「葛西君」


少し低めた憚るような声で呼びかけられて、俺は頭を上げた。
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