焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
目を向けた先に、人事部所属の同期の島田さんが立っている。


「お疲れ様。……これから?」


人事部だけあって、俺の昇進面接のことは知っているのだろう。
こんなエグゼクティブな場所に俺がいても、島田さんは特段驚いた様子も見せない。
だから俺も小さく頷くだけだ。


「そっか。すごいことだよね。頑張って」

「あっ、あのさ……」


ニコッと笑って立ち去ろうとする島田さんを、俺は思わず腰を上げて呼び止めてしまった。
自分でもなんで止めたのかわからず、一瞬何を言っていいか迷う。


「あ……えっと……。また智美が迷惑かけて、悪かった」


とりあえず、そのくらいしか向ける言葉が浮かばない。
それだけ言って頭を下げる俺に、島田さんはきょとんと目を丸くした。


「なあに? 今更」

「……ほんと、今更、か」


声をひそめて笑われて、俺もただ肩を竦める。
大事な面接を前にして、なんでこんなことを言い出しているのか、自分でも意味不明だと思った。


再びパイプ椅子に腰を下ろす俺に、島田さんが書類を胸に抱え直しながら、一歩近付いて来た。


「もしかして、葛西君でも緊張してる?」

「え?」

「だって、大事な面接前だし」


すぐ目の前の役員応接を気にしながらそう問われて、俺は島田さんに苦笑を向けた。
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