焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「葛西君……智美のこと、好きじゃなくなっちゃったの?」


いつもおっとりした印象の島田さんが、俺に厳しい視線を向けている。


「そうじゃない」


それだけは即答出来るけれど、智美の親友の島田さんに堂々と胸を張れない自分もいる。
『好き』という言葉通りの態度を、俺は智美に見せなくなっていた。
だから、七年目を目前にしてガチな別れ話に直面している。


「けど……この状態で結婚なんて言ったら……むしろ逆効果な気がするんだよな……」


気付いたら、無意識にそんな一言を呟いていた。
小さく掠れた声に、島田さんが「え?」と聞き返してくる。
俺は慌てて大きく首を横に振った。


「いや、なんでもない。……ごめん」


そう取り繕った俺に島田さんが何か言いかけた時、目の前の応接室のドアが開いた。
中に向かって深々と一礼してから、企画部の先輩が廊下に出て来る。
それを見送る俺に、『葛西君、どうぞ』と中から呼ぶ声が届く。


返事をしながら腰を浮かせた。
それを見て、島田さんはスッと背筋を伸ばす。


「頑張ってね、葛西君」

「ああ。サンキュ」


短い返事と共に頷き返した。


とりあえず、今は先のことばかり考えてる場合ではない。
俺は大きく息を吸ってから役員応接の中に足を踏み入れた。
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