焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「……勇希」


彼の肩に手を置いて、そっと呼びかけながら揺さぶった。
まだ眠りについていなかったのか、勇希はすぐに目を開けた。
そして、黙って私を見上げる。


「何?」


短い言葉が返ってくる。
息をついてから、私は意を決して少しだけ大きく息を吸った。


「ベッドで寝て」


それだけ言うと、勇希はそのまま目を閉じた。
そして、私に背を向けるように寝返りを打つ。


「こっちでいいよ」

「良くないよ。ついさっきまで熱出してたくせに。私がこっちで寝るから」


そう言って更に肩を揺する。
すると、勇希は溜め息をつきながらもう一度身体の向きを変えた。


「それじゃ意味がない」


薄く開いた目を私に向けて、勇希がはっきりとそう呟いた。


「……おやすみ」


そんな短い一言で、再び目を閉じてしまう。


勇希の肩から手を引っ込めて、私はその場にしゃがみ込んだまま目を伏せた。
そして、しゃがみ込んだ体勢のまま、もう一度彼の名前を呼んだ。


「……勇希、一緒に寝よう」

「……え?」


一瞬微妙な沈黙が流れた後、勇希がゆっくり身体を起こした。
まるで自分の耳を疑うように、私を見つめたまま首を傾げる。


そんな仕草に、言った私の方がドキドキした。
だけど。


「変な意味じゃないからね! 病人をこんなところに転がしておくほど私は鬼じゃないの。ベッドは広いんだし、今までだってそうしてたんだし、それに……」


言い繕うように早口で捲し立ててから、私は一度大きく呼吸した。
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