焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「と、智美。あんなの気にすることないよ。葛西君は絶対に断ると思うし……!」


佳代が鼻息荒くそう言って、私を鼓舞しようとしてくれる。
そんな佳代に苦笑しながら、私はかすかに聞こえてくる海外営業部の部長の声に耳を澄ませた。


どうやらあの美女は、うちの会社の秘書室の女性のようだ。
年次では私たちより一年上。
それを耳にして、佳代がなんとも言い難い微妙な目を私に向けてきた。


「葛西君が年上の女性と、とか……想像出来ないんだけど……」


佳代の感想に、私は、「そうかな」と首を傾げた。


さすが、面倒見のいい部長だけあって、勇希を割と理解している。
私が『お母さん』になってしまうくらいだ。
勇希にはああいう大人の女性の方が合ってるのかもしれない。


その証拠に、空気はとても和やかだ。
部長も交えて会話する様子だけ見れば、勇希も彼女も楽しそうだ。


「……悔しいくらいお似合い」


自業自得なのは身に沁みてわかっているけど、思わずそんな自嘲めいた一言を漏らしてしまう。


「……智美、出よう」


さすがに佳代も居たたまれないのだろう。
身体を屈めたままでそう言った。


「ん……」


まだ半分くらいしか進んでいなかった食事を残したまま、私と佳代は席を立った。


勇希のテーブルとは反対側を回って、お店の出口に向かう。
意識的に顔を背けて、出来るだけ静かに足を進める。


だから、勇希は気付かなかったと思うけど……。


もしも私に気付いたら、どんな反応をしただろう、なんて想像した。
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