焦れきゅんプロポーズ～エリート同期との社内同棲事情～

「何も遅いことなんかない。これから先、一緒にいる意味も、まだ曖昧でもいい」


いつもおっとりした佳代が、文節で声を区切りながら、私にそう言い聞かせる。


「……智美、私ね。葛西君と智美に必要なのは、この先同じ目標を持って過ごしていくことじゃないかなあって思う」

「え？」


その声に導かれるように、私はゆっくり顔を上げた。
佳代が私よりずっと大人のお姉さんのように思えて、とてもとても大きく見える。


「今まで二人とも意識して来なかっただろうし、今ははっきりした『約束』に出来なくてもいい。だけどこの先は、結婚を見据えて過ごして行くべきかなって思うの。私、思うんだけど。智美たちは長く一緒に過ごしすぎて、目標を見失ってただけなんじゃないかな」

「目標……」


諭すように語る佳代の言葉を、私は無意識に繰り返した。
そう、と、佳代が大きく首を縦に振る。


「だってね、付き合って三年で一緒に住み始めたのだって、二人で進む未来を描いていたからこそだと思う。葛西君だって、まったく考えてないことじゃなかったはずだよ」

「……あ……」


佳代の言葉が、素直に胸に行き渡る。
そして、沁み入っていく。