焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
ううん。それでも今気付くことが出来て良かったんだ。
佳代も言ってくれたじゃない。
遅過ぎるなんてことは、きっとない。


いつの間にか俯いてしまっていた私の方に、近付いて来る足音が聞こえた。
ハッと顔を上げると、ちょっと訝しそうに首を傾げながら、勇希が軽く弾むように走り寄って来るのが見えた。


「智美!」


周りの社員を気にしてか、呼ぶ声は憚るように小さい。
私の前に辿り着いた勇希から目を離さずに、私は緊張を抑えるように深呼吸した。


「お疲れ様」

「お疲れ。どうした? 急に」


前髪を搔き上げながら、勇希は軽く辺りを見回した。
この時間、帰宅していく社員の大半は女性だ。
さすがに人目につくことを気にしたのだろう。


「とりあえず、歩く?」

「……うん」


ポケットに手を突っ込んで、私を促すように先に立って歩く勇希の背中をジッと見つめた。
こうしてちゃんと勇希を見つめることすら、なんだかとても久しぶりだ。


「あ。……智美」


ビルから一歩足を踏み出しながら、勇希が私を肩越しに振り返った。
つられるように顔を上げる。


「今日の昼、あそこにいた?」


そう言って勇希が顎をしゃくって示すのは、ランチをしたレストランが入っている向かい側の商業ビルだ。
ドキッと鼓動が一つ鳴る。
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