先生、恋ってなんですか?
「労基入られたら一発アウトだなぁ」
ごちそうさまでした、と手を合わせると共に口からでたのはそんな言葉だった。
先生は相変わらず無言でこちらを見ながらコーヒーを飲んでいる。
その顔をじっと見つめてみる。
あれだけお酒を飲んでても顔色一つ変えやしない。
この人、お酒に強いんだな。
学校という枠を飛び越えて、先生ではない“向坂 孝之助”の素顔を一つ知った。
「そんな働いてんの?」
「まぁ、飲食らしく。それなりに?」
「……あんまり、無理するな」
不意にかけられた優しい言葉に目を丸くした。
だから会いたくなかったんだ、この人と。
「お前がこっち出てくるときに、さんざん言われたなぁ、俺も。ご両親とは連絡とってんの?」
「頻繁に、てわけじゃないけど、とってる」
「そ。それならいーや。夢は、叶えられそうか?」
「現実的にはどうかな。やってることに満足してるし、難しいことだってわかってるけど。……でもまだ、諦めてない」
「そうか」
穏やかな瞳は、あの頃と変わらず。
この人はやっぱり先生だ、と思い出す。
自分で、自分の夢を叶えたいんです。
そう言った私に、ちゃんと両親を納得させて前に進めと諭してくれた。
無理に突っ走ったところで後悔するような生き方をするな、と。
例えそれで夢を叶えても、誰も幸せになれないんじゃないか?と。
勇み足で、全てを投げ出して、両親さえも裏切って、あの狭い箱庭のような田舎から飛び出そうとしていたあのときの私を、根気よく説教して。
とことん話を聞いてくれて、家まで出向いてくれた。
懐かしいやり取り。