先生、恋ってなんですか?
「いや、でも先生。私、女は女だけどさぁ、仕事帰りだし。こんなカッコの女を襲う人、ないでしょー。大体パッと見で女には見えないって」
言葉を並べる私を先生は無言で見る。
うぅ、空気が重いぞ。
「一応、住宅街な訳だし。今まで襲われたこともないし……」
目が怖いぞ。
「いざとなれば、ダッシュで逃げるし……」
グッと手を引かれて、じっと見つめられる。
いや、これはむしろ睨まれている、が正解か。
距離、近い。
「男の足に、本気でそう思ってる?捕まえられたら逃げらんないよ?」
ギリ、と強くなる力に、観念して音を上げる。
「もちょっと明るい道で帰ります、ごめんなさい」
「よろしい」
パッと離された手を見つめる。
確かに、自分の……女性のものとは違う力強さが存在した。
そうか、私は女なんだ。
改めて突きつけられた感じ。
それからしばらく無言で歩いて、アパートについた。
お世辞にも新しくて綺麗とは言いがたい。
何せ、学生時代からずっと住んでいる。
セキュリティなんて無いも同然。
また何か文句を言われるかと思ったけれど、先生は特に何も言わず。
「じゃーな、よく寝ろよ。……また店寄るから」
と、あっさりと帰っていった。
後ろ姿を見送ることなく、部屋の扉を開けて、見慣れた我が家へ飛び込んだ。
夜ご飯用に、と、作っておいた味噌汁と筑前煮の香りが仄かにしている。
そろそろ冷蔵庫に保管しなければ痛んでしまうだろう。
季節はあっという間に流れていくから。
ふ、とため息を吐いて、鍋のものをタッパに移した。