先生、恋ってなんですか?

それからというもの、先生は本当にちょくちょくお店に来るようになった。
大体、夜の11時くらいに現れては、ビールと唐揚げと“本日の一品”を注文する。
そして必ず、お前今日何時?と質問をくれて毎回送ってくれる。
ガラリと扉の開く音が聞こえて、ホールからは大きく「いらっしゃいませー!」の声が響く。
それに続くようにカウンターにいた私も、いらっしゃいませ、と言う。
条件反射のようなものだ。
サービス業の職業病を上げるのならば多分、一番にあげられるだろう。
たまに遊んでいて、関係の無いお店でさえ言ってしまいそうになるほど。
だから何かというわけでは無い。

ちらっと顔をあげて時計を見ると11時5分。
入り口を見たら、先生の顔。やっぱりか。

「お、先生!こっちきなぁ!」

すっかり常連さんとも顔見知りになった先生は、私が先生と呼ぶこともあって、それがあだ名になっている。
おとなしくそれに従い、カウンターに座っている常連さんの横に座るから、前からおしぼりとお水とお通しを用意。

「び、」
「ビールと唐揚げと一品で良いですか?」

注文しようとしたそれを遮り、こちらから言うと、ニヤリと笑う。
それを肯定と受け取り、サーバーに冷えたジョッキをセットする。
そして大声でキッチンにオーダーを通す。


ビールサーバーから注がれた黄金色の液体が半分を超えた辺りでジョッキの傾きを徐々に垂直に。
7分目まで注いだら、レバーを返して泡を足す。
こんもりとした泡がジョッキの縁から立ち上がるよう注ぎきったら先生の目の前にトン、とおく。

「お待たせしました。今日の上がりは1時です。でも、本当に!送ってくれなくてもいいので!明るい道で帰りますから!」

張り切っていってみるけれど、何となく、無駄だということは今までの経験則から分かってた。
けれど言う。
あえて言う。

「あぁ」

返事を聞いてこれは私の言葉は聞き流されると確信した。


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