先生、恋ってなんですか?

「それはそうと。先生の注文は体にあまり良くないと思うよ。お酒に油もの、週に3日も4日も」
「まぁ、そろそろ胃もたれする歳ではあるが。好きなんだよ、唐揚げ。あそこのうまいよな」

悪びれなく言うこの人は、どこまで確信犯なのか。

「888(ミツバチ)の唐揚げは美味しいに決まってるでしょー」
「そうか」

何を隠そう、居酒屋【888】の一番人気である唐揚げは私のレシピ。
私が就職を決めた理由がそれだった。
バイト、社員、新人、古株問わず、店長のゴーが出ればメニューに採用。
自分が考案したものを食べたお客さんの反応がダイレクトに見れる。
それはとても大きなこと。
どの客層には何がウケるのか、こけたメニューは何がダメなのか。
こんな経験はなかなかできるものじゃない。
そんなことを知ってか知らずか先生は穏やかに笑む。
その顔を見て、ゴールはここじゃないと改めて強く思った。

じゃーな、とお決まりのように言って去っていく先生に、ありがとう、気をつけて、と別れを告げて家に入る。
被っていた帽子と、薄手のパーカーを脱いで、冷蔵庫を開けた。

……そういえば、まだ、先生にご飯作るって約束果たしてなかったな。

そんなことを、ふと思い出した。



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