先生、恋ってなんですか?

ガラリ、と扉が開くと、いらっしゃいませー!と大きな声が飛び交う。
時刻は10時50分、扉に視線をやっていた常連客のおじさんがこちらに向き直り、私に言った。

「最近は先生、ちょくちょくしか見かけなくなったなぁ」

常連さんからの言葉に、店長がこちらを見る。
バイト君もこちらを見る。
他の常連さんも、こちらを見る。
お客さんはともかく、スタッフは手を動かして!と言いたくなる。

「……忙しいんじゃないですか、先生も」

そう言って逃げては見るものの、みんなのにやけ顔は止まらない。
店長、視線が痛いです。

「来てるんですよ、今でも」
「あれ?そうなの?」
「店の中までは入ってこないんですけど。週に2日は、絶対に」

なんて、にやにや顔のバイト君が告げ口をする。
いや、別に良いのだけれど。
酒のアテにもならない話だと思うんだけど。

「下野さんと顔を会わせるのが嫌なんじゃないですかぁ?」
「ひでぇなぁ、小嶋ちゃん」

けけけ、と笑うところを見ると全くこたえてはなさそうだ。
カウンターから下がって、キッチンの中に入るや店長がよってくる。
全くこの店は……
暇なときはよってたかって人に近寄ってくるからなぁ。

「店に来てない日でも、送ってもらってんだろ?」
「はぁ……」
「付き合ってんの?」
「なんですぐそういう発想になるんですかね。付き合ってませんよ。相手は先生ですよ?先生」

そんなことより、さっさと仕事してください、と一蹴して自分も手を動かすことに専念した。
ちゃかちゃか動かないと、あっという間に時間は過ぎるのだ。
店内が暇だからといって、仕込みがなくなるわけじゃないんだから。




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