先生、恋ってなんですか?
「先生、ちょっと上がって。タオル持ってくるから」
さすがに肩の辺りが濡れていて、冬ではないにしろ春先の深夜だ。
冷えてしまって、申し訳ない。
そのまま問答無用で家の中に押し込んで、タオルを渡す。
「はい、これ使って。流石に男性用の服は無いんだけど……多少ましでしょ」
「あぁ、……ありがとう」
タオルを受け取ってくれたのを確認して、私も自分の濡れたところを拭く。
けど、やっぱり濡れてしまった服は気持ちが悪いなぁ。
仕方がないか。
「なぁちょっと、おい……」
呼び掛けられたのに続かない会話を不思議に思って振り返ると、先生が後ろを向いて頭を抱えて項垂れてた。
「……先生、どうしたの?」
「お前、俺の目の前で着替えるってどーいう神経してんだよ……」
ため息と共に先生が言う。
心なしか耳が赤くなっている気がする。
え?まさか照れてる?
「え、いやだって、裸じゃないじゃん。キャミ着てるし」
「んなもん下着も同然だろうが!」
「えー?でも……」
職場でも急ぐときは誰がいてもちゃちゃっと着替えちゃうんだけど。
「でもも何もない。俺のことなんだと思ってる」
「え、や、え?先生は先生じゃん?」
「お前のそーいうとこがムカつく」
先生は頭をがしがしと掻いて深くため息をつく。
「どしたの先生?」
着替え終わって、先生の顔を覗きこむと、タオルを差し出しながらチッと舌打ち。
態度悪いぞ。
思いながらも差し出されたタオルを受けとる。
「俺も男なんだけど?」
はぁ、と盛大にため息を吐いて先生は至極当然のことを言う。
じっと見つめられるから、何も言わずにいると、またため息。
そして、タオルありがとう、と言い残して先生は帰っていった。
「……知ってるけど、それが何なのさ」
バタンと閉じた扉に向かって私は呟いた。