先生、恋ってなんですか?
「て、……章義さん、先にお手洗い行っときます。先に席に行っててください」
映画が始まるまでには少し時間がある。
お手洗いに行って、ひとつ息を吐く。
強引だとは思う。
でも、嫌悪するような嫌な強引さではない。
気遣いがないのが気遣いなんだということも十分に知っている。
だって、長い付き合いの中、お店をより良くするために私たちは切磋琢磨してきたわけで。
あくまでも相手は店長だから逆らうようなことはないまでも、お店に対する自分の意見はきちんと示してきて、それを店長も認めてくれて。
だからこそ私たちには信頼関係があって。
そこに、今、こんな風に出掛けているとはいっても気遣い……遠慮なんてしてしまえば、築いてきた信頼関係すら見えなくなってしまう気がすることを頭の片隅でお互いに感じているんだろう。
「まぁ、映画の趣味なんて話したことは今まで無かったかな」
アクション映画よりも、どちらかというとヒューマンストーリーの方が好きなのだが。
そんなことは、きっと誰も知らない。
チケットを頼りに席までたどり着くと店長が片手をあげる。
「ほい、お前、ドリンク何飲むかわからなかったから適当に買ったけどよかったか?」
「あぁ、ありがとうございます。お金、」
は、要らないんですね、すみません。
「すまんな、お前の趣味も聞かずにアクションにして。ちょうど見たかったんだ、これ」
「私のことはダシってことですね。大丈夫です」
「ばっかお前、拗ねんなよ」
って頭をヨシヨシしてくる。
え、誰?この人。
ビックリした顔を見せると「だから、べたべたに甘やかすって言ったろ?」なんてにやっと笑ってごく自然に私の頬をその手が撫でていった。
世の中の恋人たちは甘んじてこういうのを受け入れてるの?
凄いな。