先生、恋ってなんですか?

映画館で映画を見るなんていつぶりだろうか。
少なくとも、働くようになってからはごくごく稀にしか来てなくて。
しかも人と一緒にとなると、学生ぶりだ、と、思い至る。
だからかわからないけれど、何となく緊張するというか。普段の距離よりも近く感じるような、不思議な感覚。
映画はスピード感があって、瞬きをしているとシーンが進んでいるんじゃないかと感じさせるほど。
とても面白いのだと思う。
けれど私にはどうにも物語の中に入り込むことができなくて、客観的に見てしまう。

暗がりの中、店長が買ってくれたドリンクを口に含むと酸味のあるヒヤリとした感覚が喉を通る。
オレンジジュース、か。
久々に飲んだな。
隣の店長は映画に夢中らしく、真剣にスクリーンを追っている。
正しい映画鑑賞の仕方だ。
館内の空調と、冷たいオレンジジュースで少し体が冷えたのか、フル、と肩が震えた。
映画はちょうど、クライマックスを迎えるところだ。


派手なカーチェイス、銃の撃ち合い。
海外映画は作りが華やかだ。
ドン、と爆発するシーンでは、思わず肩がビクついた。
心臓に悪い。
黒煙の上がる中、主人公は敵役を追い詰めていく。
逃げ場を失った敵役は、コメカミに自ら銃口を当てて……
ニヤリと笑う。
誰も映らない、妙に鮮やかな青空に被せられるようにパンッと乾いた音を響かせた。






――――後味の悪い映画だった。

この映画のラストにふさわしくないほど爽やかな曲がエンドロールで流れている。
これをみんな称賛するというのだから、やっぱり私は人と感覚がズレているのかもしれない。


< 52 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop