先生、恋ってなんですか?

平日の午後4時というのは、どんな飲食店も比較的空いている。
待つこともなく、すんなりと通してもらえそうだ。
店内は暖色の明かりが点り、爽やかなイメージ。
内装にもきっとこだわりがあるのだろう、壁にはオシャレにイタリア語かフランス語と思わしき文体が並んでいる。
緑と白と木目で調和された店内は、暖かみが溢れている。

「てん、章義さん、よくこんなとこ知ってましたね?」
「お前ね。俺のコトばかにしてんの?」
「や、そんなことは」
「旨い店を知る、飲食やってるやつなら当然のコトだろ」
「そうですね」

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

落ち着いた口調で、けれどにこやかに言われて店員さんの後ろに続く。
腰に手を添えられてエスコートされるのに全く慣れません。
戸惑いを隠すこと無く店長を見上げると、甘い微笑みで返された。
そういうことじゃ、ない!
さらには港をちょうど見渡せる窓側の席に案内されて、大いに戸惑った。


「カップル席みたいだ……」
「ま、そうだろうな」

店長は平然と言う。
大人なんだな、やっぱり。
まぁそれにずっと戸惑っていても仕方がない。
潔く諦めて、メニューとにらめっこ。
長い名前がずらりと並んでいて正直よくわからない、というのが本音だ。
そんな私の様子が分かったのだろう、店長は、くくく、と笑って私からメニューを取り上げた。

「小嶋、好き嫌いは特にない?」
「はぁ」
「じゃ、コースにしよ。お勧めで十分美味しいのだしてくれるから」

ニコッと笑う。
その顔を見ながら、コースの金額っていくらだったっけ?と、さっきのメニューを思い出そうとして……

「小嶋?無粋なことは考えんな」

と、笑顔で諌められたのである。



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