先生、恋ってなんですか?
前菜から、順番に運ばれてくる。
やっぱり居酒屋とは違うなぁ。
雰囲気、接客、どれをとっても違う。
私は私で【888】での仕事に誇りを持っているけれど、違うお店に来ればやはり善きにしろ悪しきにしろ比べてしまう。
きっと、どんな職業の人でもプライドを持って働いている人だったら一度は経験があることだと思う。
比べる畑は違っても、一つ一つを自分の糧にしていくのだ。
「あ、この前菜美味しい」
「だな。何使ってんだ?」
「バルサミコに……」
美味しいものを食べて、美味しい!だけで終わらないのもまた職業病と言えばそうなのかもしれない。
今は店長とふたりだから、あれやこれやと言いながら食べられるけれど、これがひとりだといけない。
何せ頭の中でくるくると考えてしまうから、眉間にシワがよってしまって難しい顔をしてるんだそうだ。
先生とご飯を一緒に食べるようになって、言われた。
『お前、自分で作った飯、好きじゃないの?』って。
そんなわけあるか、と突っ込んだけれど、悲しいかなすべて満点とはいかないのも確かで、やっぱり味に対する追求っていうのは身に染みているのだろう。
「お腹一杯です。てんっ、と、章義さん、ありがとうございます」
店長は苦笑しながら頷いている。
「ところで……」
そう切り出した私に、優しい顔を向ける。
あ、この人、私のコト好きなんだった、って、今さら思い出した。
「どうして、私だったんですか?」
「お前、中々だよな」
「今なら雰囲気に飲まれられる気がして」
「どうしてなんてわからんよ。強いて言うならその一生懸命なところに惹かれたんだろうな」
穏やかに、言う。
「その一生懸命なところにまた……振られるってことも、分かってる。俺のわがままに付き合わせて悪かったな」
伝票をとって立ち上がり「帰るか」と、また私をエスコートする。
先に私をお店の外に出して、店長がお会計をしてくれた。
外はもうすっかり暗い。
夜風が頬をさらう。