先生、恋ってなんですか?
その日の夜、つまりは店長とのデートの次の日の仕事。
少しドキドキしながら出勤すると、店長はいつも通りだったし、バイト君もいつも通り。
私にとって、それが偽り無く日常で、とっても大切で、ありがたくて涙が出そうになった。
もちろん、泣いてなんかいないけれど。
平日の中でも金曜日はやっぱり独特で、昔から“花金”なんて言葉があるくらいだ。
もちろん、我が【888】も例外無く、忙しい時間が流れていく。
「追加ドリンクお願いします」
「はぁい!」
昨日のレストランとは違う、活気に満ちた店内。
うちの店はやっぱりこうでないとね。
カウンターで伝票を確認して準備をする。
どれ?
鳥飼の水割り、露々のロック、木挽きのお湯割り、銀座のすずめのロック。
ずらりと並んだ焼酎の瓶から該当のお酒を引っ張り出す。
それぞれグラスを用意して作っていく。
その様子を見ていたバイト君が「空元気……です?」と言っていたけれど、聞こえなかったふりを決め込んだ。
あのバイト君は、洞察力がある。
そして、なかなかにお節介なところがあるようだ。
店長も何も言わない。
だから、私も何も言わない。
もとより、これは確実に個人の問題だから……
言わなくていいことは、言わない。
仕事は仕事、なんだから。
けれど私はその日からしっかり、鍵をかけて着替えるようになったので、きっとバイト君にはお見通しだったことだろう。