先生、恋ってなんですか?
マグカップにコーヒーを淹れてテーブルに二つ、そっと置く。
「ありがとう」
うん、律儀だ。
「でもお前、あーいうのはな、そろそろシャレにならん歳なんだから心えぐられるぞ」
「……すみませんでした」
真顔で言われては他に何も言えまい。
確かに妙齢(?)の先生からしたら切実なる悩みなのかもしれない。
私の一回り上だから……御歳37歳か。
先生……
「老けたね……」
ポロリと思わず口からこぼれたものは引っ込めようもなく、二人の耳に届いた。
しまったと今さら口許を押さえてみたもののなんの効果もないのは知っている。
そろりと顔を窺うと、不機嫌さを笑顔で隠すこともなく、私を見つめていた。
「……すみません」
ことごとく。
「まぁいい、本当のことだしな」
頬杖をついて遠い目をした先生は、一つ私にデコピンをくれると残りのコーヒーを飲み干して立ち上がった。
そして、ふわりとパーカーを羽織ると、ポケットから500円玉をだしてコトリとテーブルに置く。
「ごちそーさん。またよろしくな」
そう言って先生は帰っていく。
バタンと閉まった扉を見つめ、ふぅ、とため息。
テーブルに置かれた500円玉を陶器でできた豚の貯金箱に入れた。