先生、恋ってなんですか?
「お前、なにやってんの?」
「っ、なんでこんなところに、いるの?」
ざぁざぁ。
雨が降ってる。
雨音に紛れて、ピシャピシャと先生が水を踏む音が近づいてくる。
「びしょ濡れじゃねぇか。その傘は飾りか?」
近づいてきて、自分が差している傘を私に傾けてくれる。
雨はもう、私の濡れた頬の言い訳にはならない。
「そういうこと、するから」
「なんだ?」
「……なんでもない」
そうか、とだけ先生は言って、濡れたところを拭いてくれた。
そしてそのまま、冷たくなった私の手を取って歩き出した。
雨降りの公園を手を繋いでならんで歩く。
相合い傘は思ったよりもふたりの距離を近くする。
いつかもあった、その距離。
その肩と手の温もりが安心感をくれる。
さっきまでは怖かったのに、この手の温もりがあれば
雨に濡れた街はいつもより光輝いて見える。
流れる街の景色はいつもと同じなのになにかがいつもと違って見えた。
せめぎあっていた心を落ち着かせるように、無言のまま歩き続けて帰ってきたのは、私のアパート。
ガチャリ、鍵を開ければもう今までと一緒ではいられない。
だってもう、自分の中に確かに存在している気持ちに、気付いてしまっているから。