恋はまるで、粉雪のようで。
戸締まりをして、最寄り駅まで歩いて5分。


始業時間までまだ余裕があるから、ゆっくり歩いていた。


ヒールで走るなんて、この年じゃもう無理だ。


転んで骨折したって、誰も世話してくれない。



この時間だと、まだすいているから余裕だな。


そう思いながらパスモを出したら、改札口でこちらを向いて立っている人に気づいた。


大きな紙袋を提げて立っていたのは、年下男だった。


「おはよ、ひなたさん」


ニコニコ笑いながら、近づいてきた。


たぶん、いやきっと、あの紙袋にはコートが入っているんだろう。


本当は逃げ出したかったけど、コートを持ってきてもらった手前、無視するわけにもいかない。


「・・・おはようございます」


「コート持ってきたんだ、もしかしたら着てなくて寒いんじゃないかと思って」


「いちお、コートは何着かあるので、大丈夫です。


ありがとうございます」


コートを受け取ろうとすると、


「これかさばるから、コインロッカーに預けてくる」


あっという間に改札内のロッカーへ走っていってしまった。


しかたなく、人の流れをさえぎらない場所で待っていた。


「ごめん、お待たせ」


そう言うと、そうするのが当たり前だというように、一緒にホームへ向かった。



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