恋はまるで、粉雪のようで。
「ひなたさんもこっち方面?」


「はい、そうです」


「どこまで乗るの?」


「B駅まで」


「ふーん、B駅が会社の最寄り駅?」


「はい」


「俺ね、昨日返事なかったからさ、どうしようかと思って。


そういえば、初めて会った日にカフェを出て別れた時、ひなたさん駅に向かわなかったなーと思い出して。


ってことは、あの駅が自宅の最寄り駅なんだろうな、って考えて、今朝待ってたってわけ。


どう、俺の推理力、なかなかでしょ?」


なかなかっていうか、無謀というか。


でもなぜか、悪い気はしなかった。


「一昨日は、コーヒー代も払わずに出ちゃって、ごめんなさい」


「いいよ別に、俺がしつこく言っちゃったからさ」


「コインロッカーの鍵、渡してください」


「今夜、予定ある?」


「いえ、特にはないですけど」


鍵を渡してって言ってるのに、なんで今夜の予定なんて聞いてくるんだろう。


「じゃあさ、今夜待ち合わせしようよ。


その時に鍵を渡すから。


鍵が人質だから、なーんて」


イタズラっぽく笑う年下男。


その笑顔は、私の気持ちをほぐしていく。


このまま、だまされてもいいのかもしれない。


そんな風に思って、


「どこで待ち合わせしますか?」


と、言ってしまったんだ。






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