恋はまるで、粉雪のようで。
お店から出てまた地下鉄に乗って、わざわざ私の最寄り駅で降りてもらうのは申し訳ないと思ったから、


「ロッカーの鍵、返してくれる?」


ってお願いした。


「ちゃんと家まで送るよ」


「大丈夫だよ、いつも一人で帰ってるんだから」


「何言ってんの、大切な人を送るのは当たり前だろ」


「でも・・・」


「いいから、送らせて。


ほら、もうすぐ電車くるから」


地下鉄は、人身事故から少し前に復旧したばかりみたいで、すごく混んでいた。


必要以上に櫂くんと密着して、恥ずかしい。


電車が揺れるたびに、櫂くんが私を支えてくれる。


さっきまで気軽に話せたのに、何も言えなくなってしまった。



最寄り駅に着いて、ふたりで降りた。


改札口手前のコインロッカーで、櫂くんがお金を入れようとするから、


「コートを忘れたのは私だから」


そこは譲らなかった。


たった300円だけど、そこまで払ってもらうのは申し訳なくて。


櫂くんがコートが入った紙袋を持って、そのまま改札を出ようとするから、


「ここでいいよ、遅くなっちゃうし」


慌ててひきとめた。


「こんな遅い時間に女の子一人で帰すわけないでしょ」


「もう『女の子』っていう歳じゃないから、平気」


「定期あるんだし、気にしないで。


それに、ひなたさんちを知りたいっていう俺の下心もあるし」


本気で言ってるとしたら、ずいぶんだけど。


根っからのフェミニストと思うことにして、送ってもらった。



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