恋はまるで、粉雪のようで。
「そろそろ帰ろっか、送るよ」


時計を見ると、22:30だった。


「今日は、割り勘だからね」


「そう、じゃあ二千円くれる?」


「あんなに食べたり飲んだりしたのに、四千円ってことないよね?」


「いいの、そこは男のプライドだから」


「端数まで割り勘とは言わないけど、お札は半額でいいのに」


「ひなたさんと一緒で楽しかったから、いいんだよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて」



外に出ると、ピーンと張りつめたような冷たい空気で、思わず体を縮めた。


「ひなたさん、手貸して」


「手?」


おずおずと右手を差し出すと、櫂くんの左手が私の右手を包みこんだ。


「手をつなぐと、あったかいよね」


ものすごい勢いで、体中の血液が顔と右手に集中していった気がした。



地下鉄に乗って、櫂くんは途中下車して私を家まで送ってくれた。


そこまでずっと、手をつないだままで。


あっ、正確には、改札を通るときは手を離したけど。


「送ってくれて、ありがとう」


「どういたしまして、おやすみ」


「おやすみなさい、気をつけてね」



本当は、家にあがってほしかったけど。


私から誘うのは恥ずかしいし、2回目のデートで家に入れていいのかとも思うし、でもそんなの正解なんてないし、櫂くんからは言いづらいかもしれないし、部屋に二人きりだとどうしていいかわからないし、だけど週末は会えないし・・・


そんなことを一瞬のうちにグルグル考えたけど、結局何も言えなかった。


櫂くんは、くるりとUターンして、駅へ向かって歩いていく。


「櫂くん!」


さっき悩んでいたのが嘘みたいに、口が勝手に動いてしまった。








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