恋はまるで、粉雪のようで。
お客さまと一緒に営業所へ戻り、希望の物件の資料をお渡ししてお見送りをして、自分のデスクに戻った時だった。


さっき見た風景が、よみがえってきた。


こういう場合、まずどうすればいいんだろう。


泣いてわめいて、あの子は誰なんだと責めまくるか。


一方的に別れを告げて、離れるか。


忙しいことを理由に会わなくなって、自然消滅にもっていくか。


スマホを手に取り、櫂くんの連絡先を表示する。


スマホの中には、写真やメッセージや、櫂くんのことがいっぱい入っていて。


これを全部消していくんだな、と思ったら、一緒に過ごした時間は何だったんだろうって、悲しくなってきた。


思いきって心を開いてみたけど、やっぱり私は一人がいい。



「小山内さん?」


後輩の本田さんが呼ぶ声に、ハッとして顔をあげると、


「大丈夫ですか、さっきから呼んでるんですが、どこか具合でも悪いですか?」


「ああ、ごめんなさい、何かありましたか?」


「いえ、部長が会議室でお待ちです」


「わかった、ありがとう」


心配そうな本田さんを残して、部長が待つ会議室へ向かった。



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