恋はまるで、粉雪のようで。
「失礼します」


ノックをして会議室のドアを開けると、部長ともう一人男性が座っていた。


「小山内さん、忙しいところ申し訳ないね」


「いえ」


「で、来てもらった理由だけども、小山内さん、本社の管理部へ異動の内示があってね」


「えっ、私がですか?」


「そう、この営業所も長いでしょう。


すごく頑張ってくれてるから、キャリアアップしてもらおうって上の判断でね」


ものすごく意外だった。


だって、営業所から本社へ異動は、男性ばかりだったから。


本社勤務になれば、通勤は長くなるけど、土日祝日休みだし、業務内容もまったく違う。


今度は、営業所を管理する立場になるってことだ。


「小山内さん、うちとしてもぜひあなたに来てもらいたいんだ。


実は、3月末で一人ベテランの女性が退職することになっていてね、その女性のあとを任せたいんだ」


管理部の部長というもう一人の男性が、実情を話してくれた。



要するに、女性がやめるから女性が必要で。


もう嫁き遅れ決定の私が適任ってことかな。



「わかりました、一晩考えて明日お返事してもよろしいでしょうか」


「いい返事を待ってるよ」



二人のおじさんに見送られ、会議室をあとにした。



今日はいろいろありすぎだ。


なにも同じ日に決断を迫ることないじゃないか。


仕事のことだけだったら、迷わず櫂くんに相談するのに。


相談したい相手が別の女の子と歩いている場面を目撃したばっかりって、まるで壁に思いっきりぶちあたったみたい。



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