恋はまるで、粉雪のようで。
そんなわけで、午後はまるっきり仕事にならず。


のらりくらりと最低限のことを片づけた。


明日のアポの確認をすませ、書類を準備して、会社を出たのは21時近かった。


習慣とは恐ろしいもので、会社を出たところでいつも櫂くんに電話をしていたから、何も考えずにスマホを出した。


櫂くんからは何も連絡がなかった。


当たり前だよね、あの女の子と仲良くやってるんだろうし。


スマホの電源を切り、最寄り駅に向かって歩いた。


なんかもう、夕飯の用意するのめんどくさいな。


家の最寄り駅1つ手前で降りて、家族で来たことのあるファミレスに入った。


コーヒーを注文して、ノートを取り出して今日の出来事を文字にしてみた。


車から見た櫂くんの姿は、もう思い出すことすら拒否しているのか、淡くボヤけた風景になっていた。


櫂くんと、これからどうするのか。


仕事と、これからどう向き合っていくのか。


考えても悩んでも、どうするのが正解かわからなかったけど。




櫂くんと距離をおくことを決めた私は、本社へ異動する話を受けることにした。




だいじょうぶ。


櫂くんと出会う前の私に戻るだけ。


10年も一人だったんだし、すぐに慣れる。


人肌の温もりを知ってしまった今は、だいぶツライけど。


仕事が忙しくて、それどころじゃなくなるだろうし。



これから頑張る私に、ご褒美で注文したショコラケーキを食べた。


甘くておいしいはずなのに、なぜか少し、しょっぱい味がした。



ファミレスを出ると、雨は雪に変わっていた。


東京の雪は湿っぽくて重い感じなのに、今夜の雪はチラチラ舞っていた。


傘にあたる雪の音は、軽い音だった。


せっかく暖まった体をいじめるように、一駅分歩いて家に帰った。







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