恋はまるで、粉雪のようで。
会社に着くまでに何とか気持ちを落ち着かせ、部長に内示を受けることを伝えた。


繁忙期に引き継ぎ業務も加わって申し訳ないけど、後輩のためにもよろしく頼むよ、と励まされた。


忙しいのは大歓迎だ。


余計なことを考えなくてすむから。


朝礼で4月1日付の異動が正式に発表されて、同じ営業所のみんなが拍手してくれた。


異動まで1ヶ月もないし、今日から猛烈に頑張らなきゃ。



「小山内さん、おめでとうございます。


さみしくなりますね」


「本田さん、ありがとう。


いろいろ迷惑かけちゃうけど、よろしくね」


「いま、送別会計画してますので、ぜひ来てくださいね」


「繁忙期だし、世間も送別会シーズンだし、無理しなくていいのに」


「そんなのダメです、小山内さんにはすごくお世話になったんですから」


「ありがとう」


そんな風に思ってくれていたなんて、嘘でも嬉しかった。



午前中はお客さまと一緒に内見した。


新築の物件だから、お客さまもかなり乗り気だった。


だけど、社用車に乗ると、イヤでも櫂くんのことを思い出してしまう。


今朝から特に連絡はないし。


二股がバレたとわかって、連絡してくるわけないか。


それにしても、短かったな。


10年も一人でいた私に、神様が夢をみさせてくれたのかな。


でも神様、そんな夢ならみない方が良かったよ。


二人で過ごす時間を、肌がふれあう温もりを、キスのドキドキを、体が重なる幸せを知ってしまったいま、一人はさみしくてたまらない。



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