恋はまるで、粉雪のようで。
櫂くんがもし、一人暮らしなら。


ためらうことなく電話していたかもしれない。


いま、時刻は23時すぎ。


櫂くんがもし、家族と一緒にくつろいでいたら。


例の女の子と電話やメールしてるとこだったら。


気にしすぎだと思うけど、櫂くんのことを大切に想えば想うほど、慎重になってしまう。



たった一本電話すれば、声が聞けるのに。


今の心のモヤモヤも、すっきりするかもしれないのに。


どうしても、あと一歩が、踏み出せない。



とりあえず、明日の引き継ぎで使う資料の整理をしてみる。


手は動いてるけど、頭がボンヤリして働かない。


もう時間はないのに、焦る気持ちとは逆に、仕事はあまりはかどらない。



キリのいいところでやめて、続きは明日出社してからやることにした。



なかなか眠れなかったからか、珍しく夢をみた。


ふわふわした雲みたいな霧みたいなものをかきわけて進んでいくと、櫂くんと彼女が手をつないであらわれた。


固まって動けない私に気づかないふたりは、そのまま私の横を素通りしていった。



目を覚ますと、顔が涙で濡れていた。


きっとこれが、現実なんだ。



いつもより顔を念入りに洗って、気合いを入れた。



もう、なにがあっても大丈夫。


覚悟はできている。


優先すべきなのは、恋愛じゃなくて仕事だ。


少し早目に家を出た。





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