恋はまるで、粉雪のようで。
電話がすれ違った火曜日から、毎日1回は櫂くんから着信があった。


毎回出られなくて、私たちはとことんすれ違う運命なのかと思った。


でも私は、あえて折り返し電話もメールもしなかった。


連絡をとれば、本当のことが、彼女がどういう存在なのかが、わかってしまうから。


知ってしまったら、仕事が手につかなくなってしまうから。




そして、迎えた土曜日。


今日もすごく忙しくて、内見に行ったり来店されたお客さまに説明したり、バタバタの一日だった。


クタクタになって、家に着いたのは21時すぎ。


いつものように、バッグの内ポケットにある鍵を出して、玄関ドアの鍵穴にさしこんで左に回した。


だけど、空回りする感覚があった。


あれ?と思って、普段無意識にやっているから訳がわからなくなって、今度は右に回してみた。


カチャン、と乾いた音がして、ロックされた。


もしかして私、朝ロックしないで家を出ちゃった?


もう一度左に回して鍵をあけて、下の鍵穴でも試した。


下もやっぱり、空回りした。


今朝、慌ててたわけじゃなかったのに、鍵をかけずに出ちゃったんだ。


なにやってんだろ私、とあきれながら家に入った。



だけど、目に飛びこんできたのは、とんでもないものだった。



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