恋はまるで、粉雪のようで。
リビングの出窓が割られていて、カーテンが夜風になびいていた。


明かりをつけたら、散乱したガラスと、全部開けられた引き出しが目に入った。


空き巣に入られたと理解するまで、時間がかかった。


どれくらいたったかわからないけど、2階に犯人がいるかもしれないと気づいて、とりあえずモップを持ってそっと階段を上がった。


2階の部屋を全部見たら、荒らされていたけど、誰もいなかった。



まず、何をすればいい?


お姉ちゃんちは、旅行へ行っていて誰もいない。


こんな時に頼りになる人は、誰もいない。


そこでやっと『警察』の文字が頭に浮かんで、生まれて初めて110番した。


電話を切ったら、体の震えが止まらなかった。


他人がこの家に入ったと思うと、気分が悪くなった。



誰かにそばにいてほしい。


警察は来てくれても、一晩ずっと一緒に過ごしてくれるわけじゃない。




櫂くんの顔が浮かんだ。


今さらだけど、電話したら来てくれるかな。


元カノのピンチに、最後の優しさをみせてくれるかな。



櫂くんの番号を表示しては消し、それを何度も繰り返し、震える指で呼び出した。



『もしもし、ひなたさん』


櫂くんの声を聞いたらほっとして、涙が流れた。


『・・・櫂くん』


『ひなたさんどうしたの、もしかして泣いてる?』


『えっと・・・夜遅いのにごめんね。


・・・あの、実は、いま家なんだけど、空き巣に入られて、それで・・・』


『警察に電話した?』


『・・・うん』


『すぐ行く、待ってて』


『えっ、でも・・・』


『落ち着いて、心配しないで待ってて、じゃあね』



切れたスマホを握りしめて、流れた涙をそのままぬぐいもせずに、立ち尽くしていた。



櫂くんが来てくれる。


その時インターホンが鳴って、画面を見ると警察官が立っていた。



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