恋はまるで、粉雪のようで。
「コーヒーこぼしておいて、その態度はないんじゃない?」


立ち上がった私は、思わず止まってしまった。


「からかわないでください」


そう言うのが、精一杯だった。



そこから逃げるように、立ち去った。


店を出て、家に向かって走った。


走って走って、生まれて初めて必死で走ったけど、運動神経が平凡な私が、年下男にかなうはずもなく。


私の右腕は、ガシッとつかまれた。



「待ってよ」


なんなんだ、この年下男。


「離してください」


「イヤだ」


「コーヒーのことは、謝りますから」


「じゃ、連絡先教えて」


「それとこれとは・・・」


「ひなたさんが覚えてなくても、俺はひなたさんを忘れてないから。


名札つけてるわけじゃないのに名前を呼んでるんだから、それが知り合いだっていう証拠でしょ」


「確かにそうですけど」


「10年前、連絡先教えてもらわなかったこと、今でも後悔してるんだから、今日は教えてくれるまで離さない」


「じゃあ、10年前、どこで私と知り合ったのか教えてください」


すると年下男は、少しためらいがちに口を開いた。



「B大とA女子大のインカレ」



今日は、きっと厄日だ。


なんで考えたくもないことを、二度も思い出さないといけないんだ。


「そうですか、じゃあ後輩だったんですね」


「そ、俺が新入生歓迎会に出たとき、いろいろと教えてくれたのがひなたさん」


ぼんやりとした記憶が、少しずつクッキリしてきた。












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