桃色アルバム

「ケイタ、ずいぶんと遅かったじゃない。どこ行ってたの?」

時刻はもう8時。
ちょうど壁時計からとなりのトトロのテーマが聞こえてきた

「別に」
「母さん心配したのよ。なかなか帰ってこないから何かあったんじゃないかと思って」
そう言う親を無視し、階段を上っていく。

下のほうから母親の声が響いた。
「こら、ちゃんと手を洗いなさい!!!」


「はぁ・・・」
ため息をつき、ベッドにごろんと横になる。
ギシ、と木の軋む音がなった。
「つかれた・・・・」
小さく天井に言葉を投げかける。

家に帰ったら勉強、勉強。
二言目には絶対勉強だ。

下から母親の電話の声が聞こえてくる。
「・・・・ええ。今帰ってきましたわ。それにしても、お宅のマーくんいつもテストの点がいいですわね。うらやましいですわ。うちのケイタにも見習わせたいですわ・・・」

ケイタはムッとした。
近所には、年齢が違っても頭のいいヤツだばりだ。
そんな中でケイタはほかの子供と比べられる。
頭の中に今まで発せられた言葉がよみがえってきた。

『あのコはあんなにできるのに・・・』
『頭の中はみんな同じなんだから、勉強するかしないかの違いよ』
『どうしてこうなのかしらね』

(・・・・・・頭の中なんてみんな同じなわけないだろ)
心の中で何度毒づいたか。
何度、いやな思いをしたか。
しゃべってる側にわかるはずがない。

反抗したら、『親にそんな口の聞き方していいとでも思ってるの』だ。
ちょっとマンガ読んだだけで怒鳴られる。
心を休める場所がなかった。


・・・・・・・だけど

ケイタは自然にニヤついてしまった。
今日は楽しかった。
中学校に入って初めて、楽しいと思えた日だ。
そして、明日が楽しみと思えた日だ。

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