桃色アルバム
「あら、またきてくれたの?」

上野の母親がガラスから目をはなし、ケイタたちのほうを向く。

「はい。今日は上野にパイ作ってきたんです」

そう言うと、ゆりかとさとこはガラスに向き合った。


「上野、パイだよ。愛情こめて作ったんだからね」

ガラスごしに、ゆりかとさとこが言う。



「起きてきたら、もっと作ってくれるってさ」

横から、ケイタも言う。


「だから・・・早くこいよ」
「おまえの席が空でさびしいぜ」


崎野と渡部も声をかける。


こうしていると、みんな、直接話してはいないものの、上野と通じ合える気がするのだ。


ケイタはこのまま悪化するより、ずっとこのほうがいいと思った。

意識が戻るのは、なによりの願いだが。
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