桃色アルバム
「上野か。なんだ?」



「もし、仮に彼がイジメを受けているとして。じゃあそれを先生は聞いてどう対処するつもりですか?」
「まず。」

ふん、と鼻から荒い息を出し腕を組んだ。





「いじめた側の生徒を呼び出す。そして、そこで話し合いをしてもらう」
「それは、教師も含めてですか?」
「当たり前だ。ほかの先生方にも来てもらう。話し合いがすんだら、お互い握手し仲直りする。めでたしめでたしってわけだ」




そう言うとまた鼻をならし、ニヤけていばりこくった顔で上野を見下ろした。
見下しているような視線を無視し、上野はため息をついた。





「だめですね」
「何がだ?」
呆れかえった上野の顔を見てカバは顔をしかめた。





「先生たちは、自分らの前で話し合いをさせるといいました。それで、彼が自分の意見を言えるとお思いで?」



「言える。」
はっきりとカバが言った。




「言えませんね。その後は教師の都合で話が進んでいく。で、勝手に仲直り、だ。その後のことはちゃんと考えてあるんですかね」
「・・というと?」
「彼の今後ですよ。あいつがチクった、なんて言わないとでも思ってんですか。そしたら彼に向ける視線がよりひどくなるでしょう。隠れていじめもあるかも」



言い合うカバと上野という少年を見て、ケイタはなぜか気持ちが高ぶっていた。



こんなに自分と同じことを考えているやつがこの学校にいたなんて。



こんなに教師と言い合えるやつがいたなんて。



抑えられない気持ちが胸を突き上げてくる。
そして、気づかぬうちに言葉が口から飛び出していた。



「先生。おれはいじめも何もされてません。ただ、学校が嫌いなだけなんです。そう思うことはおかしいことじゃないでしょう?」




カバが、きょとんとしている。
上野が、驚いてこちらを見ている。
ケイタはそんな二人に背を向け、教室へ戻っていった。




教師に、初めて反抗した。
今までは聞き流しているだけだったのに。





内申が下がるかもしれない。
下手したら親に電話するかもしれない。
なのになぜか、気持ちがすっきりしていた。



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